在来知歴史学会のご紹介

在来知歴史学会会長 大串浩一郎(佐賀大学理工学部教授)

 佐賀大学を中心として2011年頃から在来知歴史学に関する研究活動が始まった。本学の複数の学部と交流のあった中国社会科学院や清華大学等の研究者たちも交え、国際交流の枠組みがその過程で形成され今に至っている。

 そこで、まず、「在来知」とは何か、について語ってみたい。本学理工学部の中村政俊佐賀大学名誉教授の言をお借りすれば、在来知とは、特定の地域(国)において、過去の歴史的環境、社会、文化の中で、育まれてきた、古くから存在する知識や技術である。我が国が明治維新後に西洋文明を取り入れた歴史があるが、そこには日本の素晴らしい「在来知」があったからこそ、速やかに西洋の技術を吸収し、それを越えるような日本独自の技術として我が国は発展することができた。また、第二次世界大戦敗戦後に我が国が世界のトップに至る急速な技術発展をした背景には、日本の「在来知」があったからである。

 中村先生は、在来知歴史学の研究意義について次のようにおっしゃっておられる。在来知歴史研究の目的は、自国のいろいろな分野の過去の歴史的在来知を調査し、その「在来知」の発見と活用を考え、自国のみならず、未来の世界人類の進む道を見い出すことである。「在来知」を考える時には、歴史的時代を限定することなく全ての時代を対象とし、また対象分野も限定することなく、永く広く「在来知」をとらえることが重要である。「世界人類の進む道」を考える時、必ずしも「単なる経済発展」ではなく、「世界平和をめざした方策」を重視したい。具体的には、環境汚染問題、食料不足の問題、人口増減の問題、貧富格差の問題、健康維持の問題、等々山積した問題を、在来知歴史研究を基に考えて行きたい、とおっしゃっている。今風に言えば、SDGsに関係する諸問題において、在来知を通して未来の世界の幸福に繋がる歴史研究をすべきであるということだと解釈できる。

 以上のような在来知歴史学に関する研究を我々は日中共同で行ってきた。2011年から始まった在来知歴史学に関する国際シンポジウム(ISHIK, International Symposium on the History of Indigenous Knowledge)は、我が国と中国の二カ国で毎年、交互に開催してきた。それは、在来知歴史研究が、一つの国で閉じた問題ではなく、世界全人類の問題と捉えられた結果である。お互いに異なった在来知を有する日本と中国が、互いの意見の交換を行いながら研究する意義は極めて重要である。これまでに計13回のシンポジウムが開催され、日中両国の研究者の継続的な国際交流を行う中で育まれたお互いの信頼関係、協力体制は何事にも代え難い。これから先、日中二カ国だけでなく、さらに多くの国の研究者を巻き込んで、在来知歴史学に関する国際的な研究コミュニティを作っていきたいと考えている。ご興味のある方は、是非、この在来知歴史学会に入会を検討いただければ幸いである。

2025年3月吉日